漢方処方解説
千金内托散 (せんきんないたくさん)
【処方コンセプト】高齢者や虚弱者に多い、いつまでも治りきらない化膿性疾患に。
虚弱体質あるいは体力が衰えているために、化膿した部分からいつまでも膿(うみ)が排出できずに、長引いたものに用いられる。処方名にある「内托」は「膿を外へ追い出す力もないような方の体力をつけて、体の内側の回復力(免疫力)を高めて、膿を排出させ、肉芽の形成を促進させる」という意味である。
◆ 本方は各種の化膿性疾患で、ある程度化膿が進み、しかもなお疼痛のあるものに用いて、膿の消散を促進し、痛みを緩和する。一般的には、慢性化して排膿が長引いているものに用いて、排膿を促進し、新鮮な肉芽を形成させる目的で用いる。
◆ 出典の『万病回春』(癰疽門)には「癰疽瘡癤(ヨウソソウセツ:化膿性のデキモノ)を治す。未だ成らざるものは速やかに散じ、已に成るものは速やかに潰敗(カイハイ:やぶる)し、膿自ら出ず。手擠(シュサイ:手で圧出すること)を用いることなく悪肉自去る。(後略)」とあり、本方の化膿性疾患に対する薬能をあらわしている。
※癰疽:癤が一ヵ所に群生し、その浸潤が互いに融合して、大きい硬結をつくる。
瘡癤:毛嚢と皮脂腺の急性炎症のこと。原因は熱毒によることが多い。
◆ 実際には、化膿して膿が溜まってから用いることが多い。炎症の病巣が限局し、炎症の勢いが鎮まり、全身の熱もなく、局所の炎症も拡大しなくなった時期から用いる。千金内托散は膿を醸成軟化させ表面に押し出す働きがある。
◆ 化膿性疾患の初期には荊防敗毒散(あるいは十味敗毒湯)を使い、化膿~排膿期には千金内托散を用いることが多い。がんこで治りにくい化膿性疾患でもある痔(主に痔瘻)や床ずれなどにも応用されている。
【処方構成】11味
黄耆(オウギ)と人参(ニンジン)の補気作用により虚証を治し、桂皮(ケイヒ)は表の虚証を改善し、黄耆と共に皮膚の回復力を高め肉芽形成を促進する。当帰(トウキ)と川芎(センキュウ)も血液循環をよくし、肉芽の形成に協力する。桔梗(キキョウ)や白芷(ビャクシ)には排膿作用があり化膿を治し、祛風の防風(ボウフウ)や理気の厚朴(コウボク)、清熱の金銀花(キンギンカ)も排膿に協力する。黄耆、人参、当帰、川芎、桂皮などは、膿を醸成して押し出す托法(内托に同じ)の中心的生薬で、千金内托散の主薬と考えられる。
解表 | 補気 | 利水 | 理気 | 駆瘀血 | 排膿 | 清熱 | 配合生薬数 | ||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
柴胡 | 薄荷 | 前胡 | 羗活 | 独活 | 桂皮 | 防風 | 荊芥 | 生姜 | 甘草 | 大棗 | 黄耆 | 人参 | 茯苓 | 枳実 | 厚朴 | 当帰 | 芍薬 | 川芎 | 白芷 | 桔梗 | 連翹 | 黄連 | 黄芩 | 山梔子 | 金銀花 | ||
|
○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 11 | |||||||||||||||
○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 14 | ||||||||||||||
○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 6 | |||||||||||||||||||||
○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 12 |
処方名 | 類方鑑別 |
---|---|
千金内托散 | 体力虚弱で、いつまでも治りきらない化膿性疾患に。痔や床ずれにも。 |
荊防敗毒散 | 比較的体力があり、赤くはれて、化膿して、痛むおでき、皮膚炎などに。 |
桂枝加黄耆湯 | 虚弱で肌のしまりが悪く、汗を沢山かくため、あせも・湿疹が出来やすい。 |
清上防風湯 | 若い人や思春期に多い、赤く勢いがあって、化膿するニキビや吹き出物に。 |