滋腎通耳湯 (じじんつうじとう)



【処方コンセプト】年を重ねると衰えてくる聴力の低下や耳鳴り、めまいに。

本方は、聴力が衰えて、耳が聞こえにくくなったり、また異常な音がいつまでも続いたり、時にめまいを訴えるなどの高齢者に用いられることが多い。その方名に、腎を滋養し(腎の働きを高める)、耳の通りをよくするという薬能が込められている。

滋腎通耳湯適応症



◆耳の異常は、漢方では腎の衰えととらえ、腎の機能を高める漢方を用いる。現代人の感覚からすると、腎は泌尿器と考えがちだが、漢方ではもっと広い働きと理解されている。生命活動の原動力を供給する臓器であり、成長・発育・生殖などにかかわる。したがって、腎の機能が衰える(腎虚)と老化が早まり、老化現象としての耳鳴り、聴力 低下などが発生する。


◆出典の『万病回春』に「耳は腎の竅(あな)、腎虚するときは耳聾(じろう)して鳴る」とある。耳聾とは聴力にさまざまな段階の障害がでることで、耳鳴りや難聴をさす。また、耳鳴りに伴うめまいなども含まれる。


◆このタイプの方は、老化によるもののほか、腎を疲れさせる生活をしている方に多い。若い方でも、性生活の不節制で過労したり、夜型の生活でいつも睡眠が不足している、薄着や冷たいものの摂り過ぎで体を冷やす傾向にある方も注意したい。 また、ストレスが多く神経をすり減らす生活をしている方の耳鳴りにも応用される。


◆腎虚に伴う耳鳴りは、蝉の鳴くような「ジージー」という音が聞こえる。また、「キーンキーン」というような高音性の耳鳴りは精神的な原因で起こることが多い。配合されている生薬の働きから、どちらにも使えるのが滋腎通耳湯である。


【処方構成】10味

本方は、肝血虚・腎陰虚(肝腎陰虚)により身体上部に熱がのぼり、気のめぐりが悪くなって発した耳鳴り、難聴などを改善する。補血の四物湯がベースとなり、肝血を補う。地黄(ジオウ)・知母(チモ)は腎陰を補い、知母、黄柏(オウバク)、柴胡(サイコ)、黄芩(オウゴン)が上部の熱に対応し、白芷(ビャクシ)、香附子(コウブシ)で気滞(気の流れの滞り)を去り鎮痙、鎮痛に働く。柴胡、芍薬(シャクヤク)のペアと香附子、白芷も含まれることからストレス性の耳鳴りにも使える。補腎作用が弱い時は六味丸と併用する。

滋腎通耳湯生薬構成
利水 解表 清熱 補血 理気 補養 その他 配合生薬数
沢瀉 白朮 茯苓 桂皮 生姜 防風 柴胡 菊花 石膏 黄芩 牡丹皮 知母 黄柏 川芎 芍薬 地黄 当帰 半夏 白芷 香附子 陳皮 人参 甘草 山薬 山茱萸 麦門冬 釣藤鈎 附子
  滋腎通耳湯   10
  八味地黄丸   8
  苓桂朮甘湯   4
  釣藤散   11
  当帰芍薬散   6
処方名 類方鑑別
滋腎通耳湯 高齢者に多い、腎虚による耳鳴り、難聴、めまいなどに用いる。
八味地黄丸 腰から下が冷えて重だるく、夜間の頻尿が顕著な方の耳鳴り、難聴などに。
苓桂朮甘湯 水毒症状が顕著で、不安、動悸を訴え、起立性のめまいによい。
釣藤散 高血圧傾向で、のぼせ、頭痛、耳鳴りなどを訴える方に。
当帰芍薬散 貧血、冷え症で、産前産後に不定愁訴として、めまい、耳鳴りを訴える。


      

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