帰脾湯 (きひとう)



【処方コンセプト】身も心も弱り、心(精神)の疲れを訴える方に。

このタイプの方は、食欲もあまりなく、そのために体を滋養できなくて、疲れやすい。そして、栄養不良が影響し、肉体だけではなく、心も滋養できないため、精神神経症状や不眠などを訴えることになる。

帰脾湯適応症

◆帰脾湯は、心血虚と脾気虚が併存する「心脾両虚」を改善する処方である。

◆心血虚とは、不眠、動悸、健忘、不安感など大脳や中枢神経系、心臓の拍動による循環機能の異常のことで、脾気虚とは、疲れやすい、食欲不振、軟便など消化器系の機能低下をさす。

◆直接の適応は健忘・動悸という「心」の症状であり、これに対して心に血を供給して治療する。しかし、その心の症状を引き起こす原因は脾にあると考え、同時に脾気を補って原因の治療も行う。

◆脾の機能の一部に「統血作用」があるとされ、血が血管から外へ漏れ出(出血)ないように脾がコントロールしていると考えられている。脾の機能を補う帰脾湯は、血尿、子宮出血あるいは皮下出血(紫斑病や血小板減少など)など各種の出血にも用いる。

◆帰脾湯タイプの不眠は、眠りが浅く、夢をよく見て、夜間によく目が覚める。逆に嗜眠傾向で、日中も眠くて寝てばかりいる場合もある。

【処方構成】12味

補気の基本方剤である「四君子湯」に、黄耆(オウギ)を加えると、補気の働きが増強でき、理気(気の巡りを改善する)の木香(モッコウ)によって、脾胃の気を調え、食欲を増進させる。養心安神(心血を補って鎮静させる)の竜眼肉(リュウガンニク)、酸棗仁(サンソウニン)、遠志(オンジ)や当帰(トウキ)で心を滋養し、動悸、不眠などの症状を改善する。補気補血の効能を充分に発揮させ、さらに安神薬により不安を取り除く。また、人参と当帰で新血をつくる。

帰脾湯生薬構成

  駆 瘀 血 清     熱 利  水 補   気 理  気 解表 安  神 配合生薬数
当帰 川芎 牡丹皮 芍薬 柴胡 釣藤鈎 山梔子 薄荷 竹筎 升麻 茯苓 半夏 白朮 黄耆 人参 大棗 甘草 陳皮 木香 枳実 生姜 竜眼肉 酸棗仁 遠志
帰  脾  湯                         12
  抑肝散加陳皮半夏                                 9
加 味 逍 遙 散                             10
温  胆  湯                                   7
補 中 益 気 湯                             10
処方名 類方鑑別
帰   脾   湯 気を増す四君子湯がベースの処方で、からだの疲れが精神にまでおよぶもの。
抑肝散加陳皮半夏 疳が高ぶってイライラしているために、興奮が収まらず、眠りにつけない。ヘソの左に動悸を感じ、震えや痙攣が生じる。
加味逍遙散 イライラして怒りやすい、女性では強い月経前緊張症を訴える。些細なことでも腹が立ち、イライラするため眠れない。
温胆湯 慎重派でまじめな性格。物事を決断することに時間がかかり進まない。布団に入ってからもあれこれ考えてしまうため、なかなか眠れない。
補中益気湯 不眠や精神不安といった精神症状は少ないが、元気がなく血色が悪い。エネルギー不足のため、すぐにバテたり、カゼをひきやすい。


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