漢方処方解説
補陽還五湯 (ほようかんごとう)
【処方コンセプト】血流が悪いために起こる筋力の低下、言葉のもつれに。
補陽還五湯は中国では脳卒中の後遺症によく使用されている処方である。脳卒中などで気が虚し、血が滞り栄養が全身に行き渡らないために起こる半身不随などの筋力の低下、しびれや言葉のもつれ、尿モレなどに。
◆補陽還五湯は全身の(陽)気の総量を10(右半身:5、左半身:5)とした時、脳卒中などで半身不随になり片側が0になり、動かなくなってしまった状態を5にまで戻す(還五:5を還す)という意味で名前がつけられた。
◆王清任著『医林改錯』には「此の方は半身不随し、口眼歪斜(ワイシャ:口や眼が歪む)し、言語が蹇渋(ケンジュウ:うまく話せない状態)し、口角に涎が流れ、大便は乾燥し、小便は頻数し、遺尿(尿失禁)し不禁(大便の失禁)するを治す」とある。気虚血瘀によりこのような症状が現われた際に、欠かせない処方である。
◆脳卒中には、脳の血管が詰まる脳梗塞と出血が起きる脳出血がある。栄養状態がよい今の日本では脳梗塞が多く、補陽還五湯は脳梗塞で血流が悪くなり、その先に栄養が行かなくなる病態によい。
◆補陽還五湯は脳卒中による半身不随に使用するが、意識がはっきりしていて体温が正常な時だけ使用する。脳に出血がある時には用いない。
◆処方構成から、脳血管障害に限らず、一般的な血流停滞の状態で全身の機能低下を伴う「気虚血瘀」を目標にする。 高齢者や慢性病を長く患っている方、術後衰弱している方など気虚でパワー不足の方の血流障害に応用することが多い。
【処方構成】7味
「気旺んなれば血行る」とあるように、本方は黄耆(オウギ)が主薬である。 黄耆は固表止汗で皮膚を強化する働きがあるが、本方の場合、運動麻痺などを改善する目的で配合している。 黄耆で気を補い、そのパワーでもって血の流れを良くする。また、活血化瘀(血流改善)の働きがある 桃仁(トウニン)、紅花(コウカ)、芍薬(シャクヤク)、当帰(トウキ)、川芎(センキュウ);や経絡の通りを良くする地竜(ジリュウ)で血流を改善する。 気を高め血流を改善する方意となっている。
補気 | 利水 | 理気 | 解表 | 補血 | 活血 | 瀉下 | その他 | 配合生薬数 | ||||||||||||||||||||
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人参 | 甘草 | 黄耆 | 大棗 | 木通 | 蒼朮 | 陳皮 | 枳実 | 香附子 | 木香 | 厚朴 | 麻黄 | 桂皮 | 生姜 | 当帰 | 芍薬 | 川芎 | 丹参 | 紅花 | 桃仁 | 蘇木 | 地竜 | 大黄 | 芒硝 | 杏仁 | 石膏 | 炮附子 | ||
補陽還五湯 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 7 | ||||||||||||||||||||
続命湯 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 9 | ||||||||||||||||||
環元清血飲 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 6 | |||||||||||||||||||||
通導散 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 10 | |||||||||||||||||
桂枝加朮附湯 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 7 |
処方名 | 類方鑑別 |
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補陽還五湯 | 疲れやすい、筋力の低下、言葉のもつれがある脳卒中後遺症に。体力が落ちて、慢性化した方に。 |
続命湯 | 脳卒中で倒れて、手足のしびれや言葉のもつれがある方の初期に。また、その前兆がある方にも。 |
環元清血飲 | 瘀血全般に用いることができる。主に心の瘀血を取り除き、高血圧傾向で胸痛やしびれを訴える方に。 |
通導散 | 気が滞り、瘀血になった状態に用いる。体力があり便秘傾向で瘀血による打撲や肥満にも。 |
桂枝加朮附湯 | 衰弱がひどく、体が冷え、体の自由がきかず、大小便を失禁しやすい方に。 |