漢方処方解説
葛根黄連黄芩湯 (かっこんおうれんおうごんとう)
【処方コンセプト】肩こりや胃のつかえを伴う熱性下痢に。
本方は「太陽病(カゼの初期病態)を誤って下したために下痢が起こったものを治す」と原典にあるが、処方分類では、表裏双解剤と位置付けられていて、表証(体表の症状)と裏証(体の奥の症状)を同時に取り除く処方である。表証があって裏証も明らかな場合は、表証を除くだけでは裏の邪を除くことができず、裏証だけを除いても解表できない。そんな時に表裏を同時に治療するものである。
◆ 『傷寒論』に出てくる処方で、条文には「太陽病に罹って、桂枝湯証が出現しているのに、医者が誤って攻下法で治療した結果、下痢が止まらなくなった。そして脈が促であることから、表証はまだ解除されていない。そのような状態で呼吸が喘いで汗が出ている場合は、本方で治療する」とある。
◆ 葛根湯と瀉心湯(芩連剤)の合方といわれ、芩連剤に葛根が入ったような処方と解釈できる。同じ芩連剤の黄連解毒湯とよく似ているが、黄連解毒湯は不眠やイライラを、本方は熱を伴う下痢に使用する処方と考えられる。
◆ 本方は肺熱にも使用する。夏の暑邪などが肺に入って熱状が発すると、肩こりになったり、口内炎(舌炎)になったりする。また、肺の裏が大腸だから、大腸に熱がこもって下痢につながってくる。下痢は臭いが強く、排便時に肛門がヒリヒリすることが多い。
【処方構成】4味
黄連(オウレン)・黄芩(オウゴン)は、上焦の熱およびこれから派生した精神症状を取り除く。また、これに甘草を加味した組み合わせは、胃腸の熱による下痢を改善する。主薬の葛根(カッコン)は、黄連・黄芩にも協力し、胃腸の熱を清し水を処理して、下痢を止め、表の炎症である項背強、頭痛、悪寒、発熱を治す。
解表 | 補気 | 配合生薬数 | ||||||||||
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麻黄 | 桂皮 | 生姜 | 葛根 | 黄連 | 黄芩 | 甘草 | 人参 | 大棗 | 芍薬 | 半夏 | ||
葛根黄連黄芩湯 | ○ | ○ | ○ | ○ | 4 | |||||||
葛根湯 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 7 | ||||
半夏瀉心湯 | 乾 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 7 |
処方名 | 類方鑑別 |
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葛根黄連黄芩湯 | 下痢が激しく、便臭が強い。首のうしろがこり、時に発熱する。 |
葛根湯 | 発熱と時に下痢腹痛があるが軽い。項背強が顕著、発汗はない。 |
半夏瀉心湯 | 心下痞、嘔吐、腹中雷鳴して下痢するが、残便感はない |