漢方処方解説
甘露飲 (かんろいん)
【処方コンセプト】オーラルケアのために。口腔内炎症のスペシャリスト。
口中や舌に口内炎や潰瘍ができ、熱い物や冷たい物、辛い刺激物などを食べるとしみて、ひどい場合には口に物を入れただけで激痛が走り食べられない。また、歯茎が腫れて膿んだり出血する。甘露飲は胃の炎症を鎮め、口中を潤すことにより、口腔内のさまざまなトラブルに対応する。
◆和剤局方・積熱門に「胃中喀熱、口気(口臭)、歯齦腫爛(シギンシュラン:歯槽膿漏にあたる)、 時に膿血、口舌生瘡 、咽喉腫痛するもの(中略)」とあり、胃に熱が溜まること(慢性炎症)によって起こる、 歯槽膿漏や口内炎、咽頭炎などに使われている。 ※瘡:できもの(口内炎・舌炎などの病気)
◆大塚敬節先生は「脾胃に湿熱があり、裏に瘀熱があって、しかも胃腸が弱く虚証を呈し、 口舌、咽頭、歯ぐきなどが腫脹糜爛(ビラン)して膿血を出すものに良い」と言っている。
◆甘露飲の証は陰虚内熱(体液が不足して熱を帯びる)で、慢性病や疲労による消耗や陰液(体液) が虚したことによって、熱を生じ口腔内が乾燥し粘膜が萎縮している状態。このタイプの口内炎は、再発を繰り返したり難治性のものが多く、慢性病に付随して発症したり免疫異常を伴うことが多い。
◆日本では中高年の80%が歯周炎を起こす歯周病(歯槽膿漏)を患っているといわれる。 歯周病は歯が抜けるだけでなく、最近では糖尿病や心臓病などの血管系の病気を悪化させることがわかってきた。 本方は歯周病の原因であるドライマウスを改善し、歯周病菌を抗菌し、歯周病などの歯茎の病気(はれ、やせ、出血)を改善するほか、糖尿病などの血管系の病気にも期待されている。
【処方構成】9味
地黄(ジオウ)、麦門冬(バクモンドウ)、天門冬(テンモンドウ)は体に潤いをあたえ熱を去り、黄芩(オウゴン)、枇杷葉(ビワヨウ)は上焦の熱を冷まし、枳実(キジツ)は理気作用により上焦の熱を解すのを助ける。石斛(セッコク)も補陰の働きにより脾胃の虚熱を除き、茵蔯蒿(インチンコウ)は湿熱をとる。甘草(カンゾウ)はこれらの作用を調和する。以上9種の生薬が陰虚内熱を改善し口腔内トラブルを改善する。
清熱 | 解表 | 補気 | 理気 | 補陰 | 利水 | 駆瘀血 | 消導 | 配合生薬数 | |||||||||||||||||||
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黄芩 | 黄連 | 黄柏 | 山梔子 | 茵蔯蒿 | 枇杷葉 | 葛根 | 桂皮 | 生姜 | 甘草 | 大棗 | 陳皮 | 枳実 | 厚朴 | 地黄 | 天門冬 | 麦門冬 | 石斛 | 蒼朮 | 茯苓 | 桃仁 | 牡丹皮 | 芍薬 | 麦芽 | 山楂子 | 神麹 | ||
甘露飲 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 9 | |||||||||||||||||
黄連解毒湯 | ○ | ○ | ○ | ○ | 4 | ||||||||||||||||||||||
葛根黄連黄芩湯 | ○ | ○ | ○ | ○ | 4 | ||||||||||||||||||||||
加味平胃散 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 9 | |||||||||||||||||
桂枝茯苓丸 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 5 |
処方名 | 類方鑑別 |
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甘露飲 | 繰り返しできる頑固な口内炎、舌や歯茎の炎症などの口腔内疾患に。 |
黄連解毒湯 | 顔がのぼせ、熱感があり、落ち着きがない方の口内炎、出血、神経症に。 |
葛根黄連黄芩湯 | 肩こり、頭痛を伴う下痢で、口内炎、舌炎を起こす方に。 |
加味平胃散 | 暴飲暴食が原因で、消化不良を起こし、下痢する方の口腔のトラブルに。 |
桂枝茯苓丸 | 血行不良で下半身が冷え、上半身がのぼせる方の歯茎のうっ血に。 |