漢方処方解説
麗沢通気湯加辛夷 (れいたくつうきとうかしんい)
【処方コンセプト】嗅覚障害や鼻づまりなどに用いる鼻の専門薬。
このタイプは蓄膿症(副鼻腔炎)やアレルギー性鼻炎、慢性の鼻炎などで、鼻づまりやにおいがわからないなど、急性あるいは慢性の鼻症状を抱えている。
◆麗沢通気湯は『蘭室秘蔵』や『万病回春』に「鼻、香臭を聞かざるを治す」と記されており、嗅覚障害 をはじめとする鼻の専門薬である。
◆麗沢通気湯加辛夷は麗沢通気湯に辛夷を加えた処方である。辛夷は「通竅」作用により本方の効果を増強するもので、辛夷清肺湯や葛根湯加辛夷川芎における辛夷の役割と共通である。また、辛夷が加わることで花粉症にも用いられる。
◆麗沢通気湯加辛夷は、さらさらとした薄い鼻水を伴う急性期から、鼻づまりがひどくなる慢性期まで用いることができる。
◆嗅覚障害の改善、慢性鼻炎やアレルギー性鼻炎の緩和、また鼻づまりや蓄膿症(副鼻腔炎)が存在する種々の症状(頭痛、気管支喘息、花粉症など)への幅広い効果が報告されている。
◆薬理実験において、麗沢通気湯加辛夷はヒスタミン遊離抑制作用を有することが知られている。
【処方構成】14味
本方は構成生薬が多いが、葛根湯加辛夷川芎(去桂皮・芍薬・川芎)に、玉屏風散を合わせて、白芷(ビャクシ)・羌活(キョウカツ)・独活(ドクカツ)・升麻(ショウマ)・山椒(サンショウ)を加えた構成と捉えると分かりやすい。葛根湯加辛夷川芎と比べて、白芷を配合していることから 通鼻作用に優れ、黄耆とその他の生薬が加わることで補気作用、祛風湿・昇陽作用に優れている。処方全体として、通鼻止痛・祛風湿・益気昇陽作用があり、鼻づまりや嗅覚異常の症状に適している。
解表 | 温補 | 補気 | 清熱 | 補陰 | 去痰 | 駆瘀血 | 配合生薬数 | ||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
辛夷 | 白芷 | 羗活 | 独活 | 防風 | 蒼朮 | 生姜 | 麻黄 | 細辛 | 桂皮 | 葛根 | 升麻 | 山椒 | 乾姜 | 黄耆 | 大棗 | 甘草 | 黄芩 | 山梔子 | 知母 | 石膏 | 百合 | 麦門冬 | 枇杷葉 | 五味子 | 半夏 | 芍薬 | 川芎 | ||
麗沢通気湯加辛夷 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 14 | ||||||||||||||
葛根湯加辛夷川芎 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 9 | |||||||||||||||||||
辛夷清肺湯 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 9 | |||||||||||||||||||
小青竜湯 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 8 |
処方名 | 類方鑑別 |
---|---|
麗沢通気湯加辛夷 | においがわからないなど嗅覚の障害・異常、蓄膿症(副鼻腔炎)などによる鼻閉に。 |
葛根湯加辛夷川芎 | 項背部痛や頭痛のある蓄膿症(副鼻腔炎)、慢性鼻炎、鼻づまりに。 |
辛夷清肺湯 | 粘調で黄色い膿性の鼻水や熱感を伴う蓄膿症(副鼻腔炎)、慢性鼻炎、鼻づまりに。 |
小青竜湯 | 水様性鼻水や痰のある気管支炎、鼻炎、花粉症などに。 |